The miracle stories on the Radio
藤田優一さんinterview ④
これからも変わらずに、一日一日を丁寧に積み上げていく…

10年後、ラジオがこういう風になっていて欲しいなぁというのはありますか?
うーん。「その方法はどうやってやるんだ?」と聞かれるとその答えは自分の中にないんだけど、若い人にもっと聴いててもらえたらいいな、と。今、ちょっとラジオ離れ。ま、お笑い芸人さんがやっている番組は若い人が聞いていたりするけど、全体としては減ってると思う。この間、取材した横浜市立大学の学生さんなんて、横浜生まれ横浜育ちなんだけど、しっかりラジオを聴いたことがない。なんとなく親が車でかけてるのを聴いてた、自分からチューニングすることはないと。自分も子供のころそうだったからなにも言えないんだけど、うーん、そういう人たちがラジオを気軽にチューニングして、あの番組面白かったね、とか。情報とか音楽とかをラジオを通してふれてもらえたらいい。今インターネットもあるしいろんなものがあるから、その中でラジオを選んでもらえるようになったら嬉しいなぁと。それは10年後じゃなくて来年あたりでも全然かまわない話なんだけど。じゃあどうしたらいいかというと、僕もなかなかこうしたらいいという明確なものは出てこなくて。若者向けの音楽をかけたら聴くようになるのか、というのもちょっと違うんじゃないのかなぁと思ったりするし。じゃあ、若いパーソナリティを起用したら聴くのかというのも違うんじゃないかな。なので、情けないことにここで答えは出せないんだけれど、なにかきっかけを見つけて聴いてもらえるようになってたらいいなあって思います。
ここ5、6年ラジオが番組をやるだけじゃなくて、イベントをやったり、藤田くんだったらコラボ商品(お弁当や飲料)を出したり、企業とラジオ局が一緒にコラボする形態が増えていますが、どんな風に感じてます?
たぶん、それは企業が地域密着というのに注目し始めているんじゃないかなと。全国展開ではなくて、もうピンポイントで地域地域に強いそこのメディアの人たちと組んで、神奈川はこの人が作る○○弁当、じゃあ、静岡は、長野は、名古屋は…ってそれぞれの強みを持っている人たちとコラボして、それに見合う商品ということで。「地域密着」を大手企業もやり始めて、でそれをやるにあたっては、そういう地域のラジオ局とコラボレーションするのもありなんだろうなと。逆をかえせば、我々もより地域密着、ローカルに特化していくというのがいいのかもしれない。FMヨコハマは東京に近いからより東側に目を向けていると思うんだけど、まずは、自分たちの足元をもっと掘り起こしたりっていうのをより突き詰めていくコンテンツを考えるのがいいのかなあって。例えば、長野県の人が神奈川のことを強くやろうと思ってもなかなか難しいと思うんだよね。やっぱり神奈川はね、神奈川に住んでて、神奈川で情報発信してて、神奈川で生活している人たちがなにかしていったらいいし。きっと大手企業もなにかやる時に頼ってくるのはそっちの方だと思うから。そういうオファーが来て、すぐ対応できます!という体制を僕らが整えておくというのはひとつ大事なことかもしれない。


最後に、藤田くんの今後の夢を…
あんまりなんか大それた野望みたいなのがそんなになくて。「絶対“ボイス・オブ・FMヨコハマ”になる!」「朝の時間はオレがしゃべってやるぜー!」みたいなのはあんまりなくて(笑)。だからたまに、“覇気がない”って怒られちゃうんだけど、しゃべる仕事でずっと最後までやれたらと思う。僕らの仕事って、ありがたいことに定年がないから、きちんとしゃべり続けることができれば、マイクの向こうにいる人たちに向かって通じ合えるような、そういう感覚を持ち続けることができる。ま、クビを切られちゃえば別なんだけど。でも定年がないから、あなたは60歳で終わりですよ、70で終わりですよ、というのがないから、ずっと息長く放送に携わっていけたらいいなあって思ってる。それはラジオに限らずナレーションとかもそうだし、技術を今以上にきちんと身につけて、息長くそれでご飯を食べていけたら幸せかな。
だってなくてもいい商売じゃない?ラジオはなくちゃならないんだけど、街角レポーターなんて別になくても。病院とか飲食店とか美容院とかはないと困る。「ないと困る」ものは世の中にたくさんあるけど、そういう商売ではないから。別になくてもみんながすごく苦しむものではないんだけど、でもあることによって元気づけられたり救われる人たちとか、なんか楽しい気分になってその日一日がんばれる、という人たちがいるのであれば、そういう人たちのなにかきっかけになれればいいかなあと。そんなに大それたものを望んでない…そう言うとまた怒られちゃうんだけど。「お前、もっと大きく持てよ」とかって。
でも今までがずっとそういうので積み重ねてきたから。あんまり特大ホームランを打とうと思ってなくて。イチロー選手っていうとかっこいいんだけど、コツコツ安打を重ねてなお塁に出ていくっていう。よく「20年やっててどうですか?」って聞かれたりするんだけど、初めから「やってやるぜ、20年!」っていう想いでやっていたら多分違う感覚があったと思うんだけど、年数のことなんて全然考えてなかった、もう本当に“今日一日きちんとレポートをやる”、“明日きちんとレポートをやる”みたいなことの連続。ケガなく風邪ひくことなく失敗することなく、聴いてる人に楽しんでもらって「よかった」って言ってもらえるような放送を、っていう気持ち。もう毎日それをクリアできたらとりあえずOKみたいな。で、気がついたらね、振り向いたらけっこう積んじゃったなみたいな、積めちゃったなっていうだけだから。あんまり欲はださなくていいかなって。急に20年節目で「やりますよー、俺は!」みたいな感じに人が変わったら、ま、それはそれで面白いって言ってくれるかもしれないけど、そういうの僕は転んじゃうタイプなんで(笑)。20年やってそこから転ぶと一気に下まで落ちる可能性があるから怖いかな。一段目、二段目でつまずくのとわけが違うから。
だから、また変わらず一日一日を積み上げていく作業かなあって。だって、普段聴いている街の人たちって、多分そういう風に生きてる、もちろん世界を飛び回って生きているすごい人たちもいるけれども、ラジオを毎日楽しみに聴いてる人たちは、日々の生活をきちんと一日一日積み上げて、子育てをし、旦那さんを送り出し、また旦那さんは毎日きちんと仕事に行ってお給料を稼いでもどって、っていう人たちだから、同じ目線でいくのが多分一番共感というか、価値観が共有できるんじゃないかな。僕の今のスタイルが、もしかしたらこの先だめになるかもしれないし、そんな時代じゃない、という時がくるのかもしれない。そうなったらそれはその時で、潔く身をひいてもいい時だと思う。でも、まだ今そこまででもないし、変わらずコツコツ積み上げていこうと思う。きっと楽しみにしている人もいるだろうし会いに来る人もいるだろうし。これからも変わらずそれでいこうと思う。ただ、その中でも5年後10年後、若いリスナーさんとか、より多くの人にラジオを聴いてもらって、ラジオいいねって、昔のようにラジオを聴いてくれるリスナーさんが増えるための努力はしていきたいと思っています。


一度、街角レポーター、藤田くんと一緒にレポートについていったことがあります。歩くのがとにかく速い!電車の乗り換えでも「ここの車両だと、降りるとすぐに階段です」と…動きにまったくムダがありませんでした。日々積み重ねてきた人というのは、ムダがそぎ落とされ、サムライのように芯がつよいのだと、今回インタビューをしながらそんなことを思いました。藤田くん、これからも、街を歩いて元気な声を届けてくださいね。
(インタビュー:林万里香 / 2015年10月6日)